「ほたる炭」という名前は、この炭を焼いている集落の風景からきています。
富山県下新川郡朝日町・笹川。初夏の夜になると、集落を貫いて流れる川べりに蛍が舞います。その名前をそのままもらいました。
商品名としては、ずいぶん素朴だと思います。それでもこの名前にしたのは、炭を焼くことと、蛍が飛ぶ環境が、同じ一つのことだからです。
蛍が飛ぶには、きれいな水がいる
蛍の幼虫は、水の中で育ちます。餌になるカワニナが棲むのは、澄んだ流れのある場所だけです。
その水はどこから来るか。山です。落ち葉が積もった土は水を蓄え、ゆっくり濾しながら川へ送り出します。山が荒れれば、水は濁ります。
つまり蛍が飛ぶかどうかは、その上流の山の状態で決まるということです。

炭焼きは、山を使う仕事です
炭の原料は木です。ほたる炭では、ナラ・ケヤキ・サクラといった里山の広葉樹を、地主さんに許しをもらった山からチェーンソーで伐り出しています。
木を伐る、と聞くと山を壊しているように思われるかもしれません。実際は逆です。
里山の広葉樹は、根元から伐っても切り株から芽が出て、また育ちます。十数年から二十年の周期で伐って、また育てる。この繰り返しが、明るく健全な林をつくります。
伐られないまま放置された里山は、木が育ちすぎて林床に光が届かなくなり、下草が消え、土が痩せていきます。水を蓄える力も落ちます。
炭焼きは、その周期を回しつづける仕事でもあります。
一窯十二日という速度
いま笹川で炭を焼いているのは、二人だけです。かつては二十人ほどいました。
一窯焼くのに、火入れに五日間、冷ますのに七日間。合わせて十二日かかります。土窯に温度計はなく、煙の色とにおいだけを見ながら、焚き口と排気口の大きさを変えて空気の量を調整していきます。
完全に炭化しきらない部分が、ほんの少し残るくらいがいい。
焼きすぎると「焼き炭」になって、火持ちが悪くなる。
この速度でしか山は使えませんし、この速度だから山が保ちます。二人で焼ける量には限りがあります。それは弱点でもありますが、山との付き合い方としては、たぶん正しい速さです。

名前に残しておきたかったこと
炭の性能だけを言うなら、「堅木炭」でも「笹川炭」でもよかったはずです。
それでも「ほたる」を選んだのは、この炭が山と川と、そこに集まる生きものごとでできているものだからです。炭だけを切り取って売っているのではない、という意味を、名前に残しておきたかった。
袋には「蛍の飛びかう里」と刷ってあります。
ほたる炭の性能や製法については市販の炭との違いと炭ができるまでに、集落そのものについては朝日町・笹川の里にまとめています。