土窯は、何十年も同じ姿のままではありません。私たちの窯は、これまでに場所を移しながら、いまの姿になりました。
「炭窯の作り方」を調べてこのページに来た方に先にお伝えすると、この記事は築窯の手順書ではありません。使い込まれた土窯がどう変わってきたかという、現場の記録です。
「炭窯の作り方」を探してきた方へ
窯の寸法や築き方の工程を求めて検索された方には、期待と違う内容かもしれません。笹川の窯場で私たちが語れるのは、聞き取ってきた範囲に限られます。具体的な築窯手順は、ここには書きません。
代わりにお伝えできるのは、実際に何十年も使われてきた土窯が、どう場所を移し、どう受け継がれてきたかです。窯を新しく築く話ではなく、いま使っている窯がここまで来た経緯として読んでいただければと思います。
窯は、場所を移しながら続いてきました
笹川では50年以上前、どこの家でも炭を焼いていました。時代とともに山に入る人は減り、炭焼きは途絶えかけたといいます。
約30年前、当時まだ若かった職人たちが窯を築き、炭焼きグループを立ち上げました。それから技術を受け継ぎながら、窯を現在の場所まで移し、焼きつづけてきたと竹内伸さんは話します。

窯を一度築いたら、それで終わりではありません。土の窯は使うほどに傷み、いつか場所を移し、築き直す時が来ます。いまの窯がこの場所にあるのは、そうやって移し替えられてきた歴史の結果です。
一窯を焼く工程は日数として語れますが、窯そのものが何年もつのか、いつ移し替えの時が来るのかは、聞き取りの中でも数字では語られませんでした。それは、日々窯のそばに立ちつづける人にしか分からないことなのだと思います。
窯は痩せていくのに、炭は痩せません
不思議なのは、窯は使うほど傷んでいくのに、そこで焼かれる炭は、時間が経っても傷まないことです。
炭は一度炭化させてしまえば腐りません。日本では縄文期より前の遺跡からも木炭が見つかっているといわれ、古墳時代の出土品には備長炭に匹敵する硬さの炭も残っています。千数百年前にはすでに、高度な製炭の技術があったことになります。
炭の歴史をたどっても、この「腐らない」という性質は変わっていません。

かつて炭は俵に詰められ、蓄えられてきました。窯は消耗し、いつか場所を移して築き直されますが、そこから焼かれた炭は、蓄えれば何年でも残ります。防災の備蓄として炭が選ばれるのも、この性質があるからです。
頼りになるのは、いまも煙と匂いだけ
窯そのものが場所を移し、姿を変えていっても、窯の中で起きていることを見極める方法は変わっていません。竹内伸さんは言います。
頼りになるのは、煙の色と匂いの変化だけ。
温度計も自動制御もなく、火入れの間じゅう、窯のそばで煙と匂いを見つづけます。窯が何十年ぶんの火をくぐり、場所を移して築き直されても、この見極め方だけは、変わらず受け継がれてきました。
この見極め方は、教わってすぐ身につくものではありません。竹内伸さんも、はじめは近所の人に誘われて炭焼き職人グループに入り、人についていって仕事を見ながら、少しずつ体で覚えたといいます。炭焼き歴は約15年になりました。
窯が場所を移すよりも長い時間をかけて、人の側もこの仕事を受け継いできたことになります。

ほたる炭が今日も焼けているのは、痩せていく窯を移し替えながら、この見極め方だけを守りつづけてきたからです。窯は形を変えても、そこで焼く手つきと判断は変わらず引き継がれています。